2010年 03月 26日
どうしてトヨタ問題が起こったか。 |
トヨタは、フロアマット・アクセルとブレーキ問題で、全米で約800万台のリコールをせざるを得なくなった。リコール問題が昨年から、今年にかけて次々と発生したにも関わらず、対応が遅れ、特に、大量のリコールを発表した2010年1月の末、豊田章男社長がスイスのダボス会議に10日間も出席し、この間情報が伝わらなかった。それを知ったアメリカの政治家は、「自社が危機的状況にある認識が足りない」と怒った。リーマンショックのとき、アメリカの自動車会社の社長が議会に呼ばれ、彼らは自家用航空機できたことが、アメリカの政治家の怒りを買い、退職金なしで首を切られた。
アメリカでリコールがうるさいのは、車の安全性にも問題があるが、ドライバーの質の低下にも原因がある。アメリカの人口は約3億人、そのうち2億人が自動車なくては生活できないため、免許状の取得は簡単で、高齢者に特に厳しいことはなく、日本のようにボケを調べる検査もない。むしろ、誰にでも車が乗れるのが当たり前と考えている。だからブレーキとアクセルの踏み違いは、頻繁に起こっている。アメリカで取り上げられているトヨタ問題の本質は、ブレーキの不具合でなく、アメリカの政治家にとって、「アメリカのユーザーが欲しい車に欠陥があってはならず」、「問題を生じさせないのが経営者の仕事である」ということである。
1997年のトヨタの販売台数は500万台弱であったが、奥田、渡辺元社長は、トヨタの膨張路線を推進し、2007年には843万台に達した。急拡大を実現するために、商品点数を増やし、現地生産と現地調達を拡大した。このため、新しい部品メーカーを次々と起用し、トヨタ文化を理解していない多くの未知のサプライヤーと一緒に仕事をすることになった。
実は、急拡大のために、2000年代なかばまでに、品質管理が差し迫った問題となっていたにも関わらず、GMを追い越して、世界最大の自動車メーカーになることを阻むものは一切許されなかった。2008年に、GMを抜き去ったが、その間に品質問題とリコールは積み上がっていた。そのリコール問題のほとんどがトヨタの自社工場ではなく、サプライヤー工場で起きたのである。本社工場を中心に、1次サプライヤーが広がり、さらに1次サプライに供給する2次サプライヤーが扇形に広がる。サプライヤーの網の目の外側に、1つの部品だけを生産する無数の3次サプライヤーが存在する。今回のトヨタのリコール問題を引き起こしたアクセルペタルの組み立て部品メーカーCTSは、2次サプライヤーであった。
トヨタは、特定のサプライヤーを特定の部品の調達先として選び、長期的な密接な連携で自動車のサプライチェーンマネジメントに革命をもたらせた。欧米の自動車メーカーは、社内で調達するか、もっとも安い部品を提供する会社と契約を結んだ。
トヨタのサプライヤーが生産する部品の高度の品質が、組立工場に必要な部品を必要な時に供給する「ジャスト・イン・タイム」のシステムを可能にした。現在、アメリカの自動車メーカーを始め、大手の自動車メーカーは、トヨタの生産方式を採用している。だから、豊田章男社長などの幹部が米国議会で、厳しい質問を受けたとき、米国の自動車メーカーは喜んだのではなく、次は自分たちの番かもしれないと心配したと、『The Economist』は伝えている。
先に述べたように、トヨタの品質問題の背景には、1)急拡大とグローバル展開、このためトヨタと現地生産拠点、部品工場との間の「兵站が伸び切り」、2)部品共通化によるリコール対象の激増、がある。日本のメディアは、トヨタの「カンバン方式」をほめたたえたが、奥田、渡辺体制のときから、社内組織の脆弱性が露呈し始めた。グローバル組織の脆弱性の克服は難しい問題であるが、とりあえずは、世界に散らばったサプライヤーとの意思の伝達の迅速性と、現場に精通した人材が、現場で判断できるようにすることが必要である。しかし、厳しい競争の中では、絶えず変化が求められ、変化する度に、新たな品質問題が起こる。今後、アフリカなどがグローバル市場に参加すれが、それが進めば進むほど、文化の違いを認めつつ、どのようにして「世界品質」を確立・維持するかが大切な問題となる。
アメリカの自動車メーカーは、日本に匹敵するハイブリッド車を作れず、アメリカのトヨタ工場の現地部品調達率は90%と、フォードより高い調達率である。今回の事件後でも、「トヨタはもはやアメリカの企業である」という、同情的な意見も多く、日本の技術力やトヨタのブランドは失墜していない。それは、今のリース料金を見れば分かる。リース会社はリースが終わると中古車として売り出す。このとき、新車の価格の何%で売れるかでリース料金が決まる。中古社の価格は、GMのシボレーは43%、トヨタのセルシオは85%である。当然、セルシオのリース料金が安く、ブレーキの事故があっても、価格は変わらなかった。つまり、日本車の評価は再び高くなると考えられよう。
しかし、自動車産業にとって、もっと重要な根本的な問題がある。地球温暖化の問題によって、石油関連の産業は衰退するという時代の動きである。この流れは、ガソリン車を消滅させる。現在、EV車を商業的に生産し、マーケットで売り出しているのは、三菱自工のi-MiV(アイミーブ)のみである。アイミーブは最先端のリチウムイオン電池を使用しているが、フォードのEV車は旧態依然とした鉛電池を使用していると伝えられている。それほどまで、リチウムイン電池の材料開発は難しいが、さまざまな電池のなかで、リチウムイオン電池の重さはもっとも軽く、充電量と発電電圧がもっとも大きい。16時間でフル充電したときの電気代は50円、その値段で160キロ走れる。軽油だと、100円で5キロしか走れない。EV車は部品が少なく、運転が簡単、原子力発電所の電気を充電すれば、走行コストは石油より著しく安い。コストの安さは、EV車がガソリン車を駆逐することを示唆している。つまり100年以上続いた自動車産業に大転換が起こり、それは産業界に大きい影響を与える。
河合七雄
アメリカでリコールがうるさいのは、車の安全性にも問題があるが、ドライバーの質の低下にも原因がある。アメリカの人口は約3億人、そのうち2億人が自動車なくては生活できないため、免許状の取得は簡単で、高齢者に特に厳しいことはなく、日本のようにボケを調べる検査もない。むしろ、誰にでも車が乗れるのが当たり前と考えている。だからブレーキとアクセルの踏み違いは、頻繁に起こっている。アメリカで取り上げられているトヨタ問題の本質は、ブレーキの不具合でなく、アメリカの政治家にとって、「アメリカのユーザーが欲しい車に欠陥があってはならず」、「問題を生じさせないのが経営者の仕事である」ということである。
1997年のトヨタの販売台数は500万台弱であったが、奥田、渡辺元社長は、トヨタの膨張路線を推進し、2007年には843万台に達した。急拡大を実現するために、商品点数を増やし、現地生産と現地調達を拡大した。このため、新しい部品メーカーを次々と起用し、トヨタ文化を理解していない多くの未知のサプライヤーと一緒に仕事をすることになった。
実は、急拡大のために、2000年代なかばまでに、品質管理が差し迫った問題となっていたにも関わらず、GMを追い越して、世界最大の自動車メーカーになることを阻むものは一切許されなかった。2008年に、GMを抜き去ったが、その間に品質問題とリコールは積み上がっていた。そのリコール問題のほとんどがトヨタの自社工場ではなく、サプライヤー工場で起きたのである。本社工場を中心に、1次サプライヤーが広がり、さらに1次サプライに供給する2次サプライヤーが扇形に広がる。サプライヤーの網の目の外側に、1つの部品だけを生産する無数の3次サプライヤーが存在する。今回のトヨタのリコール問題を引き起こしたアクセルペタルの組み立て部品メーカーCTSは、2次サプライヤーであった。
トヨタは、特定のサプライヤーを特定の部品の調達先として選び、長期的な密接な連携で自動車のサプライチェーンマネジメントに革命をもたらせた。欧米の自動車メーカーは、社内で調達するか、もっとも安い部品を提供する会社と契約を結んだ。
トヨタのサプライヤーが生産する部品の高度の品質が、組立工場に必要な部品を必要な時に供給する「ジャスト・イン・タイム」のシステムを可能にした。現在、アメリカの自動車メーカーを始め、大手の自動車メーカーは、トヨタの生産方式を採用している。だから、豊田章男社長などの幹部が米国議会で、厳しい質問を受けたとき、米国の自動車メーカーは喜んだのではなく、次は自分たちの番かもしれないと心配したと、『The Economist』は伝えている。
先に述べたように、トヨタの品質問題の背景には、1)急拡大とグローバル展開、このためトヨタと現地生産拠点、部品工場との間の「兵站が伸び切り」、2)部品共通化によるリコール対象の激増、がある。日本のメディアは、トヨタの「カンバン方式」をほめたたえたが、奥田、渡辺体制のときから、社内組織の脆弱性が露呈し始めた。グローバル組織の脆弱性の克服は難しい問題であるが、とりあえずは、世界に散らばったサプライヤーとの意思の伝達の迅速性と、現場に精通した人材が、現場で判断できるようにすることが必要である。しかし、厳しい競争の中では、絶えず変化が求められ、変化する度に、新たな品質問題が起こる。今後、アフリカなどがグローバル市場に参加すれが、それが進めば進むほど、文化の違いを認めつつ、どのようにして「世界品質」を確立・維持するかが大切な問題となる。
アメリカの自動車メーカーは、日本に匹敵するハイブリッド車を作れず、アメリカのトヨタ工場の現地部品調達率は90%と、フォードより高い調達率である。今回の事件後でも、「トヨタはもはやアメリカの企業である」という、同情的な意見も多く、日本の技術力やトヨタのブランドは失墜していない。それは、今のリース料金を見れば分かる。リース会社はリースが終わると中古車として売り出す。このとき、新車の価格の何%で売れるかでリース料金が決まる。中古社の価格は、GMのシボレーは43%、トヨタのセルシオは85%である。当然、セルシオのリース料金が安く、ブレーキの事故があっても、価格は変わらなかった。つまり、日本車の評価は再び高くなると考えられよう。
しかし、自動車産業にとって、もっと重要な根本的な問題がある。地球温暖化の問題によって、石油関連の産業は衰退するという時代の動きである。この流れは、ガソリン車を消滅させる。現在、EV車を商業的に生産し、マーケットで売り出しているのは、三菱自工のi-MiV(アイミーブ)のみである。アイミーブは最先端のリチウムイオン電池を使用しているが、フォードのEV車は旧態依然とした鉛電池を使用していると伝えられている。それほどまで、リチウムイン電池の材料開発は難しいが、さまざまな電池のなかで、リチウムイオン電池の重さはもっとも軽く、充電量と発電電圧がもっとも大きい。16時間でフル充電したときの電気代は50円、その値段で160キロ走れる。軽油だと、100円で5キロしか走れない。EV車は部品が少なく、運転が簡単、原子力発電所の電気を充電すれば、走行コストは石油より著しく安い。コストの安さは、EV車がガソリン車を駆逐することを示唆している。つまり100年以上続いた自動車産業に大転換が起こり、それは産業界に大きい影響を与える。
河合七雄
by shichio_kawai
| 2010-03-26 15:32
| 技術